心の実感に触れる技法
フォーカシング(Focusing) は、カール・ロジャーズの弟子だったユージン・ジェンドリンが生み出した、静かに心に感じられる「実感」に触れ、そこから意味を見い出す方法です。心理セラピーや自己理解、夢理解の方法として米国をはじめ、ヨーロッパほぼ全域に普及しています。
ジェンドリンと研究者たちは、カウンセリングがうまくいく場合とうまくいかない場合とにはどんな差があるのかということについて研究をしていました。
膨大なカウンセリングの録音テープを分析した結果、そのカウンセリング成功の要因はカウンセリングの手法の違いやカウンセラーのキャリアの差などによるのではなく、 「クライアントの話し方」にあるということを発見したのです。
カウンセリングで効果があるクライアントは、言い淀みながら、自分の心を表現する言葉を探していきます。
「ええっと…つまり、なんと言ったらいいんでしょうね…」
「なんか、こう・・・、胸の辺りにぞわぞわした感じがあるんです・・・」
といった話し方です。このようにして言葉を探す人は、注意深くじっくりと自分の心に触れており、カウンセリングの場で気づきがあるのです。
逆に、そうした探索的な作業をしないクライアントに対しては、いくら面接の回数を重ねてもカウンセリングの進展は難しいようでした。
ジェンドリンは、これらの観察から「何かはっきりしない、漠然としたからだの感じ」に注意を向け、触れつづけていることが大切なのだと気づきました。
そして、この「何かはっきりしない漠然とした感覚」に注意を向けるプロセスを「フォーカシング」と呼んで世に広めました。
「何かはっきりしない、漠然としたからだの感じ」をフェルトセンスと呼びます。 フェルトセンスは純粋な身体的感覚(打撲の痛みなど)とは異なり、何らかの心理的意味あいを含んだからだの感じです。
フェルトセンスは、私たちの日常生活の中で、「注意を向ければそこ(内側)にある」ものです。ただ、忙しすぎる毎日の中で、私たちはフェルトセンスをしばしば無視しています。私たちは子どもの頃から、自分の気持ちに気づくよりも回りの状況に自分を合わせることばかりを教わります。外からの情報に合わせることばかりに気を取られているうちに、自分の内側からやってくる感覚に気づきづらくなってしまいました。
しかしそれでもそれは、「注意を向ければそこにある」のです。
フェルトセンスに触れることができれば、それはフォーカシングができたということですし、フォーカシングを理解したといって過言ではありません。ゆったりとした気持ちになって、折に触れて、フェルトセンスを感じることが大事です。
フェルトセンスと「一緒に時を過ごす」こと自体が、私達に癒しをもたらします。深い充実感を伴って「ああ、こういう感じが自分の中にあるんだな」「今自分は、自分に触れているなあ」と実感するものです。
フェルトセンスに触れることの意義は、子どもと一緒に時を過ごす意義によく例えられます。子どもに関心を持って一緒に過ごしていると、子どもは本当に喜びます。それと同じように、私達の内面は、私達に注意を向けてもらうということをとても喜ぶのです。
フェルトセンスに触れつづけていると、フェルトセンスがひとりでに変化して感じが変わったり、自分がどうするのが良いかについて、ある実感を伴った気づきの瞬間(「フェルトシフト」)に到ることがあります。
そのときには深い解放感とリラックスが得られ、皮膚電気抵抗や瞳孔反射や脳波にも生理学的な変化が現れることが確認されています。
Alma Materではフォーカシングを「ホリスティック・アウェアネス・セラピー」の中に統合する形でご提供しております。
『やさしいフォーカシング - 自分でできるこころの処方』